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デルタ・ヘッジを行うのは、通常、買い呼び値と売り呼び値との差(スプレッド)から利益を得るマーケット・メーカーで、デルタ・ヘッジをかけることによってリスクを抑えるのである。
デルタ・ヘッジは、適切に行われれば長期的には利益を生むはずだが、自動的にトレンドに追随する行動を導く。 市場がある方向に動くと、デルタ・ヘッジャーも自動的に同じ方向に動く。

つまり、相場が上がれば買い、下がれば売るのである。 このようにして、マーケット・メーカーは、自分のリスクを市場に転嫁する。
通常は、市場参加者はそれぞれ異なる方向に動くので、市場はリスクを吸収することができる。 しかし、ごくまれに、リスクが市場の片側に蓄積し、デルタ・ヘッジングが相場の動きの不連続を引き起こすことがある。
このような時、効率的市場理論は崩壊する。 こうした事態は、それさえなければ儲かるビジネスに水をさすほど頻繁に起きることではない。
しかし、一度起きたら、市場に壊滅的な打撃を与えかねない。 商業銀行や投資銀行の自己売買部門で行われているリスク管理は、デルタ・ヘッジングと同じ働きをする。
一人のトレーダーが負える損失額に上限を設けることによって、相場が逆に動いた場合に、そのトレーダーのトレーディング・ポジション(取引持高)を下げさせるのである。 これは、事実上、みずから出すストップ・ロス・オーダー(逆指し値注文)で、これがそもそも損失を発生させた市場のトレンドにはずみをつける。
その結果は、ロングターム・キャピタル・マネジメント(TCM)が危機に陥ったとき明白になった。 一般にトレンド追随型の行動全般、とりわけデルタ・ヘッジングは、市場のボラティリティーを高めるきらいがあるが、マーケット・メーカーにとつてはボラティリティーが高い方が利益になる。
オプションに高いプレミアムをつけることができ、しかも、プレミアムの上昇はボラティリティーが上がったことで当然とされるため、オプションの買い手は不服をいえないからだ。 一般大衆にかかる隠れたコストがあるかもしれないが、それはうまく隠されている。
ポール・ボルカー元連邦準備理事会議長がかって言ったように、だれもが通貨市場のボラティリティーに不服をいうが、だれも何もしようとしないのは、大衆は不服をいえず、デリバティブのマーケット・メーカーは、ボラティリティーを作り出し、それに対する保険を売ることによって利益を得ているからなのデリバティブはますます高度になり、不連続を引き起こす危険が特に高いものも登場している。 一九八七年の株式市場の崩壊は、ポートフォリオ・インシュァランスという名で販売されたデルタ・ヘッジングのテクニックが広く使われていたため、一層悪化した。

この保険を買った投資家は、その分だけ多額の金を市場に投資していた。 相場の下落でこの保険が作動すると、突然大量の売りが出て不連続を引き起こした。
再発を防ぐため、規制当局はいわゆるサーキット・ブレーカー制取り引きの一時停止措置を導入しただこれは、こうしたデルタ人ツジ言グラムの基盤をなす市場の連続性という想定をうち砕くものだ。 同様に危険なデリバティブ商品が通貨市場でも広く使われているが、これらを抑制する措置はなんらとられていない。
一例を挙げると、ノックアウト・オプションは、相場が一定の限度に達すると無効になり、オプションの買い手には保証がなくなってしまう。 ノックアウト・オプションは通常のオプションより格段に安いため、かっては日本の輸出業者の間ですこぶる人気があった。
一九九五年に彼らが一斉に「ノックアウト」されたとき、ドル売りが殺到して、円はわずか数週間で一ドル約百円から八○円を切るところまで高騰した。 オプション・ポジションの不均衡は、これ以外にも時折、見たところ正当性のない大幅な通貨変動を引き起こしてきた。
状況は規制、あるいは少なくとも監視を大いに必要としているが、再びボルカーの言葉を借りると、それを強く要求する支持母体は存在していない。 一般に、デリバティブ、スワップ、先渡し取引には、登録された取引所で行なわれる場合を除き、証拠金が義務づけられていない。
マーケット・メーカーとして行動する商業銀行や投資銀行は、これらの取引を簿外取引として処理することができる。 これらの商品は、効率的市場、合理的期待、金融市場の自己修正能力が信じられていた時代に発達した。
それに対し、株式の購入に伴う証拠金支払い義務は、はるか昔から存在している。 仮に私の主張が正しくて、最近発明された金融商品や取引テクニックの一部は、根本的に欠陥のある金融市場理論に立脚しているのだとしたら、証拠金支払い義務がないことは、重大なシステム・リスクをもたらすかもしれない。
より根本的なレベルでは、金融イノベーションに対するわれわれの姿勢を見直すべきだろう。 イノベーションは自由市場の主な利点のひとつとみなされているが、金融市場は元来、不安定なのだから、金融イノベーションは不安定を生み出しているのかもしれない。
金融イノベーションに対しては、新型鼠取り器などの発明品に対するのとは違った見方をしなければならない。 これには、かなりの調整が必要だろう。
世界中の優秀な頭脳が金融市場に引き寄せられてきているし、効率的市場理論とコンピューターが結びついて、新しい金融商品や新タイプのアービトレージ(裁定取引)の爆発的な成長が起きているからだ。 こうした新商品や新テクニックが金融システムにおよぼす危険は無視されてきた。

市場には自己修正能力があるとされているためだが、これは幻想にすぎない。 革新的な商品やテクニックは、規制当局にも市場関係者にも正しく理解されてはおらず、それゆえ、安定を脅かす種になるのである。
デリバティブをはじめとする複合金融商品は、証券の新規発行を証券取引委員会に登録しなければならないのと同じように、認可制にすべきだろう。 新商品開発者の創造のエネルギーがこつこつ肌型の官僚が管理する規制を受けなければならないのは、不本意ではあるが、これが私の提案だ。
ィノベーションは、それを生み出した人に知的興奮と利益をもたらすが、安定を維持すること、より職正確には行き過ぎを防止することがそれに優先されるべきなのだ。 ロシアの経済破綻は、システム・リスクをいくつか明らかにした。
効率的市場理論にもとづくりスク管理テクニックを他に先駆けて使ったヘッジ・ファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(TCM)の失敗は、この理論の失敗を立証するものだ。 連邦準備理事会が救済の音頭をヘッジファンドロングターム・キャピタル・マネジメントの救済劇の後、ヘッジファンドの規制について盛んに取らなければならなかった事実は、システム・リスクが存在していたことを示唆している。
ロングターム・キャピタル・マネジメントは、五○億ドルに満たない自己資本に対し、一千億ドル以上の資産を運用していた。 加えて、一兆ドルを超える簿外債務があった。
ロシアの経済破綻による混乱のため自己資本が蝕まれ、救済時には六億ドルにまで減少していた。 もしもロングターム・キャピタル・マネジメントがあのまま放置されて破産していたら、取引相手の銀行や証券会社は何十億ドルにものぼる損失を被っていただろう。

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